前書き
所々厳しい感想を書きますが、演劇を初めて10年も経っていない若僧の独断と偏見で書いていることをご承知の上で読まれて下さい。逆に、この感想に対して意見や批判等があれば各々Twitterやブログ等で発信して頂きたいですし、是非それを拝読したいです。基本的にはロクコレを通して、参加団体の方々が演劇に意欲を持って、福岡演劇界が盛り上がる事を期待しています。
公演について
【公演名】
『濃縮還元なましぼり』(ギムレットには早すぎる第一回自主公演)
染矢は4公演目 土曜の19時の会を観劇。
場所はリノベーションミュージアム冷泉荘。マックスの観客数が大体25人くらいのかなり小さめの劇場。(当日は満席でした)
30分の短編戯曲が3つ上演され、トータルで90分の公演。
戯曲1「趣税」施行に伴うガイドラインとその具体例
一言で言うとこの作品は何がやりたいのかよく分からなかった。
この作品では、趣を感じることに課税がされるという世界が描かれていた。例えば、大浴場にゆっくり浸かっていい気分になったりすることに300円の税金がかかるといったような事だ。自分で文章化してみてもイマイチしっくり来ないが、なんとなくシュールな世界観であることは分かった。しかし、最初から最後まで、何故そういった趣を感じることに税金がかかるのかわからないし、どこからどこまでを趣とするのか分からないし、かかる金額も何百円といった微妙な額で、それが高いのかどうかもイマイチ分からない。
そして何よりも、趣税を取る役者と取られる役者のお互いの声が入れ替わるといった演出がどういう意図なのか分からなかった。正直、かなり見づらかった。何でこんな演出をするのだろう?と考えているうちに終わってしまった・・・。
ただ、趣税という発想は面白いと思うので、もっとそこにフォーカスを当てて遊んでみたら良いのかもと思った。この公演の3つ目の戯曲「立て屋」はそこが上手いこと行っていたように感じる。
戯曲2 小瓶
前述の「趣税」よりは何をやりたいか分かった。が、面白さが掴めていない。伝えきれていないという印象。
この作品では、バイト先での客からのクレー厶や、バイトの同僚からの陰口に苦しんでいる青年が描かれる。全体的に暗めの雰囲気。苦しんでいる描写は多いものの、それが実感として伝わってこなかった。それは、その青年がクレームにあった時、陰口を叩かれた時、そのストレスをどのように発散しているのか?といった日常が分からなかったからだと思う。
青年には相談できる友達がいるのか、いないのであれば心の拠り所があるのかとか、クレーマーへの優越感と実際の自分の対応の差にどうギャップを感じているかとか、生身の人間の感情が伝わって来なかった。
劇中のセリフはほとんど青年の独り言や心の声。なので、半分一人芝居のような感じ。セリフは良くも悪くも小説的で、演劇として見ると説明や表現がクドく感じた。もし、そういった手法で挑戦するなら役者力をグンと上げるか、いっその事、ほぼセリフを喋らせずに、言葉以外で表現する手法を探るべきだと思う。
戯曲3 立て屋
僕はかなり好きな作品だった。観客も3つの作品でこれを一番面白いと思ったのではないか。
この作品では、ある一人の大学生の身の回りでフラグが立ち、そのフラグを回収してしまうと寿命が縮んでしまうといったシュールであり、恐ろしい世界が描かれていた。
フラグが立ち、それを回収するというのは、例えば『テスト前に勉強を全然していない状況』の時に『なぜかテストで満点を取ってしまう』といった事だ。そして、大学生は日常生活で次々と立つフラグを回収しないように四苦八苦するのだが、その演出というか、仕掛けがとても良かった。まず、フラグが立った合図として、クイズの出題音が流れる演出があるのだが、それがいい味を出していた。仮に『テスト前に勉強を全然していない状況』でフラグが立ったとして、大学生は、次に何が起こるとフラグを回収してしまうのかを考えなければならない。その場合『テストで満点をとってしまう』と不正解音が流れ、それ以外の事象が起こった時に正解音が流れる。その出題音と正解・不正解音が流れるまでの間、大学生が悩むと同時に観客も「何が伏線回収なんだろう?」と考える。その観客が作品にのめり込んでいくような仕組みがうまくできていたと思う。そして、大学生の寿命が縮むかもしれないというデスゲーム的な状況に対して、クイズの出題音と不正解音のエンタメ感とのギャップがとてもシュールで良かった。他にも、このフラグ回収をしている「立て屋」が現れるのだが、立て屋の営業サラリーマン感が抜群に良かった。僕は彼が舞台上に出るだけで笑ってしまった。
この作品はフラグ回収のアイディア・演出が面白いなーと思っているうちに終わってしまったので、30分ではなくもっと長い尺で見たかったというのが正直な所。主人公がこの世界でどう生き抜いていくのか、あるいはフラグ回収を死んでしまうのか、などもっと濃密な葛藤が見てみたいなと思うし、それがちゃんと描けるのであればガラパに匹敵する長編もできてしまうのではないかと思った。
まとめ
厳しい事を書いたかもしれないが、僕としてはかなり楽しめた公演だった。残念ながら前半の2つの戯曲は僕は面白く感じなかったが、その2作品とも退屈さは感じず、割と見ていられた。それは恐らく、役者達全員に学生演劇レベルを超えた基礎的な力(体の使い方・集中力・会話表現等)が備わっていたからだと思う。実際、11/12の3回目の公演で多少疲弊しているはずだが、セリフを噛んだり、集中力が切れて段取りが悪くなるといったミスが見られなかった。逆に、改善点を言うとすれば、突き抜けた表現力やその役者にしかないと面白さというものが引き出せてないこと。ワンピースで例えるなら、ゴムゴムのピストルは打てるけど、自分の覇気が何色なのか分かっていない、といった感じ。うーん、伝わるかだろうか?笑。でも、自主公演を重ねて場数を踏んで、各々が持っている個性的な能力を見つけて、ギアセカンド、いや、もっとその先が出せるようになって欲しい。
脚本に関しても色々書いたが、それぞれ劇団員が脚本を書いているのはいいことなので、それらをお互いにブラッシュアップしあっても良いんじゃないかと思う。そして、もっと自分達のアイディアを面白がって欲しいし、その表現や客観的にどう見られるかというのを考えてみて欲しい。
音響・照明は可もなく不可もなく、という感じがする。絶対にやってはいけない演出はしていないが、まだまだ記号的で無難なものを選んでいる印象。もっと必然性を持った音や照明、観客の心を揺さぶるような工夫が出来ると思う。それはロクコレに参加している他の団体で上手いところが沢山あるので、どんどん真似して欲しい。
是非、2回、3回と自主公演を重ねて面白い団体になることを期待してます。関係者の皆様お疲れ様でした。